海勉 Studies of the ocean

国民共有の財産である海洋水産資源の管理は国民に開かれた政策の下で科学的に行われなければならない

根拠薄弱な「資源状態」は誤解を招くから記載すべきではない。

国立研究開発法人水産研究・教育機構が毎年発行している魚種別資源評価の資源水準は、資源情報が多い一部の魚種を除いて記載を取り止めるべきです。

令和2年度資源評価結果

まずこの記事で私が取り上げている「資源状態」とは上のリンク先(2021年12月6日閲覧)にある、右向きの矢印で表す「動向」と低位・中位・高位で表す「水準」のことです。これらは一見わかりやすいですが、個別の魚種レポートに記載されているその根拠が薄弱なものがあります。

 

イワシの場合は資源状態について記述があっても良いと思います。理由は資源評価の判断のために年齢別・年別漁獲尾数、資源量指数(産卵量、沖合域分布量、未成魚越冬群指数、資源量指標値)、自然死亡係数、そして漁獲努力量といったデータセットが使われているからです。

http://abchan.fra.go.jp/digests2020/details/202001.pdf

 

ところが、ニシンの場合は「資源状態は情報不足でわからない」と書くのが誠実だと思います。理由は判断のために使われるデータセットが漁獲量と種苗放流数しかないからです。

http://abchan.fra.go.jp/digests2020/details/202023.pdf

上記リンクの4ページに

「資源水準は、1975~2019年の漁獲量を平均した値を50として各年の漁獲量を指標値(資源水準値)化し、70以上を高位、30以上70未満を中位、30未満を低位とした。2019年の資源水準は、資源水準値が92.0であるため、高位と判断した(図7)。資源動向は、直近5年間 (2015~2019年)における漁獲量の推移から増加と判断した。」

とありますが、資源水準と資源動向が単に漁獲量から判断されています。これでは1975年から2018年まで漁獲量が低く、2019年に新しいニシンの捕獲法を適用したり操業時間を過去より長くすることで半ば無理矢理漁獲量を上げた場合でも、資源水準は「高位」と判断され、資源動向は「増加」と記述できてしまいます。

 

漁獲量は、それ単体では漁獲量という意味しか持ちません。操業時間やどれだけ定置網や刺し網を用意したかという漁獲努力量などの情報と組み合わせて初めて資源状態は推定できます。この「資源状態」がメディアや水産白書などで一般国民に広められると、ニシンは資源豊富なのだという印象を与えてしまいます。もちろん完璧に海の中にニシンが何尾いるかはわかりません。本当にニシンの資源量が多いから近年漁獲量が増えている可能性もあります。しかしそれでも判断するために使用するデータが漁獲量しかないのは不充分です。

 

水産研究・教育機構は、データの少ない魚種の資源水準の記載を取り止めて「資源状態は情報不足でわからない」と記述すべきです。