海勉 Studies of the ocean

国民共有の財産である海洋水産資源の管理は国民に開かれた政策の下で科学的に行われなければならない

MSY(最大持続生産量)。記2021年7月29日

Youtube農林水産省の公式チャンネルhttps://www.youtube.com/user/maffchannel

がMaximum Sustainable Yield(MSY、最大持続生産量)について簡潔な説明動画を公開。

youtu.be

このような発信をしてくれたことは素直に良い評価をしたい。ただし5分57秒の動画なのでどうしても省略された説明も。というわけで MSYについて掘り下げてみる。

 

月刊海洋(2018年10月号 通巻575号 Vol.50, No.9)においてMSYについて議論あり。MSYは自然を単純化して一つの値として算出していることから説明しやすい、という賛成意見がある一方、複雑な現実を反映していないという反対意見が挙げられている。

 

ここでの「自然の単純化」とは、海の中の一種類の生物の群れのみを考えて、異なる生物種間の相互作用や環境変動などを考慮しないことを指す。例えば、サンマならサンマのみを考えて、サンマの餌となる動物プランクトンやサンマを捕食するクジラなどの増減は考慮しない。さらにサンマがある空間や環境下で維持できる最大の量(サンマの環境収容力)の時間変動も考慮しない。本来は、あの魚種のMSYは何万トン、その魚種のMSYは何万トン、と固定した値にはできない。未来の環境状態は、過去や現在と違う可能性があるからだ。

 

MSYの活用の反対を主張する論文で有名なのは Larkinの "An Epitaph for the Concept of Maximum Sustained Yield" (1977)だろう。題名を和訳すると「最大持続生産量の概念への墓碑銘」になる。しかし、その後に発表された Maceの "A new role for MSY in single-species and ecosystem approaches to fisheries stock assessment and management." (2001) https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.462.9670&rep=rep1&type=pdf

ではMSYへの認識の変化について書かれている。MSYを達成するような漁獲係数(漁獲圧) F_MSYは国連食糧農業機関(FAO)が発行する協定やガイドラインに登場し、アメリカのマグナソン・スティーブンス法(Magnuson–Stevens Fishery Conservation and Management Act)にも組み込まれた。一つの目安、参照点として活用しているとのこと。

 

動画中5分40秒ごろhttps://youtu.be/5q6joFtx_78?t=340 の映像に出てくる

「MSYベースの資源評価に基づいて設定された量だけ漁獲していけば、だんだんと魚の量全体が増えていく」

という表現は誤解を招きそう。マイワシのように環境変動の影響で大きく個体数を変えると考えられている種は、たとえ禁漁に近い措置をしても資源量が減ることもある。ただし科学的な資源評価に基づく漁獲が資源を崩壊させず漁業経営も守る、という主張の論文はあげ出したらキリが無いし、その主張の通りだと思う。

「MSYベースの資源評価に基づいて設定された量だけ漁獲していけば、一時的に漁獲量を減らす年もあるが、持続可能な漁業を達成できる可能性を大きくすることができる」

くらいにしてはどうか。