海勉 Studies of the ocean

国民共有の財産である海洋水産資源の管理は国民に開かれた政策の下で科学的に行われなければならない

魚を無料配布するより対価を払って魚を食べる価値観を育てるべきである

幾つかの地方自治体のイベントで、魚の無料配布が行われています。配布される魚種は、鮭や秋刀魚などがあります。筆者はこのような行事の開催に反対します。参加者はきちんと自分でお金を払って魚を購入すべきです。魚の無料配布は漁業者団体もしくは自治体に主導され、その目的には新規需要の掘り起こしや魚食文化の継承があると推察します。しかし、無料配布はその目的を達成するための効果的な手段とは言えないと思います。

 

第一に、そのイベントに参加した人はその後配布されていた魚を継続して買い続けるようになるでしょうか。また来年も同じイベントが開催されるからその時またタダで食べることができれば良い、という意識を持たれる方も中にはいると思います。水産業は、有限かつ不確かな要因の多い水産資源を維持しながら利益を上げる高度な産業です。消費者が「水産物は運が良ければ安く、ひょっとすると無料で入手できるもの」という印象を持ち、漁業者も「水産物を無料で配っても後で行政から補助金や協力金がもらえて何とかなる」という意識を持ってしまうのは、産業としても文化の継承としても健全ではありません。

 

また、自治体主導の無料配布では、イベント参加者の代わりに行政側が魚を業者から購入し、配布している場合もあるかもしれません。しかしその購入費には、そのイベントに参加しない人や魚を食べない人が納めた税金も含まれています。イベントに参加するかしないか、魚を食べるか食べないかは個人が自由に選択できるものです。イベントに参加しないことを選択した人が、イベントに参加し魚を食べる人の代金を一部負担する構図になっているのは、不公平な税金の運用です。

 

大切なことは「価値のあるものにきちんと対価を払う」という価値観を漁業者や消費者で醸成していくことです。当然ながら、水産物の漁獲は費用無しではできません。漁業者の人件費、漁具や漁船の購入費や維持費、獲れた水産物の加工費や輸送費など数多くの手数と費用が掛かります。消費者はそれらに対し対価を払い、漁業者や漁具漁船メーカー、加工業者、輸送業者を支えることが水産業の大まかな仕組みになります。漁業従事者は商品やサービスに利益の出る価格を付け、消費者はこれを認めて自分自身の金から対価を払い商品やサービスを享受する構図が大切です。これは水産業だけでなく健全な経済活動を作り上げ維持してゆくためにあらゆる産業で必要なことです。