海勉 Studies of the ocean

国民共有の財産である海洋水産資源の管理は国民に開かれた政策の下で科学的に行われなければならない

TAC(漁獲可能量)。 記2022年7月16日

TAC(Total Allowable Catch、漁獲可能量)は、ある漁獲対象種の指定した期間(大抵は年単位)に獲ることのできる上限量である。

http://www.jafic.or.jp/tac/index.html

https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_koukan/

などのWebページを見ると、例えば令和2(2002)年のマイワシのTACは、太平洋系群が1,408キロトン、対馬暖流系群が108キロトンとわかる。

 

TACの利点としては、操業時間や操業する漁船の数を決めて資源管理をする方法よりも科学的な根拠がある。操業する時間や隻数を定めても、魚が多くいる場所で操業すれば沢山獲れるし、少ない場所ではその逆になってしまう。漁獲効率の良い漁法や漁具を使えば、時間や隻数に制限があっても魚を多く取ることは可能になる。それに対してTACの設定は予め漁獲してよい量の上限を決めることなので、資源管理には効果的である。ところが、TACを設定するだけでは意味がない。TACをABC(Allowable Biological Catch、許容可能漁獲量)を下回るように設定し実行することで適切な資源管理となる。ABCとは、それを上回る収獲(漁獲)をすると資源が崩壊するリスクが高くなる収獲(漁獲)量のこと。ただしこのABCを厳密に求めることは、資源の推定や個体数の移り変わりの不確実性があることから難しい。ABCを決める「目安」としてMSY(Maximum Sustainable Yield、最大持続漁獲量)を使用している。

MSY(最大持続生産量)。記2021年7月29日 - 海勉 Studies of the ocean

もちろんMSYもABCと同じ理由から厳密に求めることは困難である。「MSYという指標に価値があるかどうか」という議論と「TACを設定する事自体が適切かどうか」という議論は直接には関係ない。MSYは単なる指標の一つであって、TACを設定する根拠は他の指標を使うことも可能だからである。

 

TACの欠点としては、TAC設定のみでは早獲り競走になること、複数の魚種にTACがあると全ての消化が難しくなること、海上投棄を招くことなどがある。漁獲してよい上限だけが設定されていると、漁業者はその量に到達する前に自分が漁獲しようという動機がはたらく。そして漁期が始まったら多くの漁業者が同時に漁獲を始め、多くの量の魚がすぐに水揚げされる。これは供給過多になり価格形成の段階で不利になってしまう。解決策としては、TACに基づき漁獲枠を漁業者に分ける手がある。専門用語ではIQ(Individual Quota、個別割当)や割り当てられた漁獲枠を取引するITQ(Individual Transferable Quota、譲渡可能個別割当)がある。

複数の魚種にTACが設定されていると、混獲が問題になる。狙った魚を狙った量だけ獲ることができれば理想だが、現実上は難しい。ある魚Aは上限まで獲ったのでそれ以上獲ることは出来ない、だが別の魚Bはまだ漁獲量の枠に余裕がある、しかし魚Bを獲ろうとするとどうしても魚Aも獲れてしまう、という状況があるとする。その場合魚Aの混獲に目を瞑って漁獲を続けるか、魚Bの漁獲を中断して来季に漁獲枠を持ち越すか、議論が必要になる。

上の場合に関連して、魚Aが上限を超えて獲れてしまっても、海上に捨ててしまえばよいという判断もありうる。漁獲量のデータとは、事実上水揚げされた量であり、本当に漁獲した量ではないという指摘もある。ただし海上投棄した魚がそのまま元通りに生きていれば問題はないが、死んでしまったら結局資源の乱獲に等しい結果になる。漁業者による漁獲した魚の海上投棄を防ぐためには、監視員の漁船への同乗などモニタリング制度が必要になる。